【導入事例】三菱電機株式会社FAシステム事業本部(10 Days SaaSification for AWS)
重電システム、産業メカトロニクス、情報通信システム、電子デバイス、家庭電器など多岐にわたる製造や販売を行う三菱電機株式会社。
今回は、同社FAシステム事業本部の岩田さんと中野さんにお話を伺いました。
10 Daysをきっかけに一歩踏み出した
ーまずは事業内容や、今回10 Daysに取り組んだプロダクトについて教えてください。
岩田さん:
当社FAシステム事業本部は、主に製造業のお客様に対して生産設備の自動化、つまりファクトリー・オートメーションの機器やソリューションを提供しています。その中で私たちが所属するDX推進プロジェクトグループでは、ソフトウェア技術を用いて工場をスマート化するデジタルマニュファクチャリングを推進しています。私たちは、データ分析やデータの活用に関する領域を担当しており、お客様へのソリューション提案やソフトウェア開発に従事しています。
今回、10 DaysでPoCを行った『MELSOFT MaiLab』も、AIを活用して製造業のお客様の生産現場の改善を支援するプロダクトです。既存ビジネスであるFA機器に加えて、ソフトウェア技術を活用したSaaSという新しい形態のビジネスの可能性を模索するために参加させていただきました。
FAの分野においても、近年ではソフトウェア技術の重要性が国内外問わず高まっており、ソフトウェアをいかに活用していくかという課題は避けては通れません。実際にお客様に接する中でもそういったソフトウェアへの関心と期待が広がっていると感じます。
当社FA事業で扱ってきたのは主に生産設備の制御機器や加工機などのハードウェアになりますが、それらの根幹にはソフトウェアの技術があります。従来、制御のために使用していたソフトウェア技術をAIやデータ分析といった新たな領域で活用し、FA分野におけるソフトウェアの在り方を再定義するということが必要なのではないかと考えています。
中野さん:
もちろん、お客様が明確にハードウェアやソフトウェアを分けて考えることはほとんどありません。生産現場からデータを収集し、いわゆる見える化することが一般的になってきて、生産現場データを活用する可能性が見えてきたというのが現在のフェーズだと考えています。データが収集できたら、次にそれを活用したいというニーズが生じるのは当然です。しかし、データ活用には専門的な知識が必要な場合があるため、データを収集できたからといって、それを活用できるかはまた別の話です。生産現場データを活用すれば色んなことができるという漠然としたイメージ・期待が先行している反面、それが必ずしも容易ではないというギャップが生じています。
そういった背景もあり、『MELSOFT MaiLab』は生産現場データの分析と活用を誰でも簡単にできるようにするというコンセプトを重視しています。お客様に直接ヒアリングして課題を探ってプロダクトに反映し、コンセプトを実現できるような製品作りが重要であると考えています。
ー10 Days実施に至った背景などお聞かせいただけますか?
岩田さん:
元々、社内でもSaaSやクラウドへの関心が高まっており、その流れでAWSさんとの連携を強めていこうという話がありました。その活動の一環として、 AWSを活用し、現状もオンプレミスで提供しているソフトウェアプロダクトのSaaS化について事業・技術の両面で検討を行い、SaaSビジネスの解像度を上げるために10 Daysをご紹介いただきました。
中野さん:
それ以前にも『MELSOFT MaiLab』をお客様が保有するクラウド上に載せるというような話自体はありましたが、なかなか検討が進んでいない状況でした。SaaS化の話もありましたが、果たしてSaaSというビジネス形態が合っているのか?という疑問から議論が進んでいませんでした。漠然と検討を進めなければならないという意識はあるものの、動き出せていないというもどかしさを感じていました。
10 Daysを通じたSaaS化の検証プロジェクトのオファーをいただいて、足踏みをしていた現状から、最初の一歩を踏み出すために丁度良さそうだなと感じました。
ー10 Daysの実施に際して感じていた不安や期待などを教えてください
岩田さん:
10 Days以前から、SaaSやクラウド技術、AIや機械学習と言った新しい技術を活用して、新しい事業を企画・検討したいと考えていました。しかし、長年「形のあるハードウェアを売る」という事業に携わってきた私たちにとって、「ソフトウェア使用体験・サービスを売る」というSaaSビジネスはまさに未知の領域でした。技術や事業の知見がない状態で、10日間でSaaS化を検証するというスピード感についていくことができるのか?という不安がありました。
中野さん:
どうやってSaaSにするのか?という疑問が解決できれば良いなと考えていました。仮想マシンに載せるくらいは自分たちでも行えると考えていたので、10 Daysを通じてSaaS化には他に何が必要なのか理解できるのではないか、と。社内でもSaaSやクラウドの話題は上がるものの、足踏み気味で進展がない中で実際にサービスとして動くものを見てみたら、それが大きな一歩になるのではないかと期待していました。
ー『MELSOFT MaiLab』のSaaS化についてはどのように考えていますか?
中野さん:
世間的にもSaaSの話題性や機運が高まっているのは感じていましたが、それに流されるのではなく、『MELSOFT MaiLab』をSaaS化する場合、それによってお客様にどんな価値をもたらすのかが最も重要な観点だと考えていました。SaaSというものの解像度が低かったこともあり、SaaS化を検討する目的が曖昧で『MELSOFT MaiLab』にとって本当に必要なことなのか?という疑問が議論の枷になっていたのかもしれません。課題に対する打ち手としてのSaaS化という理解が進んでおらず、SaaS化することで強みがなくなるのではないかとすら考えていました。実際に、10 Daysを進めていく中で議論していくと、SaaS化をした場合でも強みを十分に発揮できることに気づいたので、具体的な検討や手を動かして検証することの重要性を改めて感じました。
岩田さん:
SaaSは、サービスの追加や改善を繰り返しながらプロダクトを提供していくビジネスモデルなので、お客様の実体験から来る真の課題を汲み取り、改善策を提供することができます。SaaS化によって、お客様とより密接かつ双方向的な関係を築き、私たちの製品・提案の価値を継続的かつ迅速に向上させることができるのではないか、そのように私たち自身のプロダクトづくりを変革できるのはないかという可能性を感じています。
ー10 Days前後でSaaSについての印象に変化はありましたか?
岩田さん:
元々、私は、SaaSというものはソフトウェアの置かれる場所・処理が実行される環境の違いでしかないと考えていました。オンプレミスのソフトウェアと本質的な違いはないと考えており、SaaS化をする必要性や意義については疑問を持っていました。
10 Daysを経て、SaaSはビジネスモデルを変革し拡大できる可能性を持つ手段だと考えられるようになりました。10 Daysでの議論を通じてSaaSへの解像度が上がったことで、「SaaSにすると何かよくなるかも」という漠然としたイメージだけで語り合うのではなく、事業の上でSaaSという仕組みをいかに利用するかという具体的な検討とアクションを伴った議論ができる下地ができたと思います。10 Daysによって、そうしたナレッジを得ることができたのは貴重な経験であったと思います。
中野さん:
私も、流されてとりあえずSaaS化するということに対しては懐疑的に感じていました。SaaS化という手段と目的がマッチしている必要があり、時代の潮流や一般論に流されてとりあえずSaaS化というのは本質的ではないと思います。
もちろん、SaaS化の取り組み自体に対して否定的な思いはありません。ただ、10 DaysのようなSaaS化プロセスの疑似体験をすることで、SaaSへの認識を改め、理解を深めて、その上で議論できる状態にしていく必要があると感じます。手応えを持ってない段階での議論は空を掴むようなもので、疑問や懸念が浮かび上がっても解決する術を持たず停滞してしまいます。実践的な経験によってSaaSの表層的な部分に囚われた議論から抜け出し、本質的な議論を展開することができるようになるのではないでしょうか。
ー10 Daysの感想をお聞かせください。
岩田さん:
10 Daysで『MELSOFT MaiLab』SaaS版のMVPが完成して、自分のスマホ上で『MELSOFT MaiLab』が動くのを見た時には感動しましたね。しかも、わずかな期間・工数でスピード感を持って実現できて驚きました。
中野さん:
ビジネスに関するヒアリングでは私たちの考えや要望を上手く引き出してもらえた感覚はあります。おかげで、どういったものを作っていくか?というコアの部分を自分たちで具体化できましたし、そこに至るまでの考え方や方法論も学ぶことができました。
それを踏まえて、デモとして実際に動くものを実装していただき、実装内容や方法などを説明していただいたので理解が深まりました。ビジネスと実装の二段構えが充実していて良いプログラムだなと感じました。
また、10 Daysを通じてAWSのサービスやSaaSus Platformの存在を知ることができ、1人のエンジニアとして刺激を受けましたし、新しい技術や知識を使って色々なことができそうでワクワクしています。
10 Daysで1の壁を超えた
ー10 Daysを終えて意識や考え方に変化はありましたか?
岩田さん:
「あ、ほんとにできるんだな」と実感しましたね。AWSのサービス群やSaaSus Platformのように作るための機能やサービスは数多く世の中にあるので、実施前は理論上は可能なのかもしれないけど本当にSaaS化できるのか?という疑問を持っていました。それが実際にやってみたらできるんだという実感に変わりました。
実感を得る前は、例えばテレビの番組表を読んだだけで、番組を見た気になっているようなものだったかと思います。言葉で概要を知っているだけではなく、実際に目で見て触れて話し合うことでしか得られない理解の深さというものがあり、そうした深さがさらなる次の発想へ結びつく可能性が高いということを改めて感じました。同時に、この不確実・複雑な世相において、自分達の内部知識から来る想像だけで議論を完結させてしまうことの危うさも感じました。
中野さん:
私も似たようなことにはなりますが、やってみたらできるという実感を得られたというところが大きいですね。それはつまり、やってみないと分からないということも表しているなと感じています。やる前に議論だけしていても、本当に考えるべきポイントや課題が見つかるとは限りません。課題を見つけるためにもやってみるという意識は重要で、迷ったら動いてみるという感覚が身につきました。
例えるとすると、これまでの活動は数字で表すと0.8とか0.9とかのイメージで、1を超えない数字にどんな数字をかけても大きくなっていかないのと同じで、事業を推し進める上でも1の壁を超えるというのが重要だなと感じています。今回の取り組みにおいて、10 Daysを通じてSaaSやAWSについて議論するための下地をつくれたおかげで、1の壁を超えられたように感じています。まだまだ1.1くらいかもしれませんが、ここに議論やアイデアを掛け合わせていくことで、ビジネスとして大きく進んでいけるという手応えがあります。
もちろん、すぐに事業に還元されることではありませんが、将来を見据えて今、一歩目を踏み出せたというのは価値のあることだと思っています。目先の利益ではなく、長い目で見た価値や効果を私たち以外のメンバーに伝えていきたいです。そうした活動を説得力を持って行っていくために、実際に動くものを見せるというのは重要です。私たち自身、頭の中のものが目の前に現れた時の衝撃や感動を味わっているので、それは強く思いますね。
『MELSOFT MaiLab』SaaSで視野を広げていく
ー今後の『MELSOFT MaiLab』や貴社の展望について教えてください
岩田さん:
今後は、SaaSやクラウドに関する知識・知見だけでなく、10 Daysのような実践的なビジネス検討の進め方・考え方の重要性や、「まずはやってみる」というマインドを啓蒙し、自部署内や社内に還元するということをしっかりと行っていきたいです。FA分野におけるSaaSやクラウド、ソフトウェアに関してはこれからより深く検討や議論を進め、道の無い所を開拓していく領域だと考えています。私たちがガムシャラに獣道を切り開いて、議論の深化や活性化を促していきたいです。私たちだけでなくFA制御機器やロボットに携わるメンバーも含めて、当社全体で中野さんの言うように0.9の繰り返しから1の壁を突破していけたら良いなと考えています。
すぐに大規模サービスを展開するという訳ではなく、次のステップとして『MELSOFT MaiLab』SaaS版 MVPを実際にお客様に体験していただくテストマーケティングを行いたいと考えています。それにより、ユーザ循環型のプロダクトづくりへのシフトを進めて行くとともに、組織として徐々にSaaSの運用経験を蓄積していくのが必要だと考えています。それと並行して『MELSOFT MaiLab』とFA機器など他のプロダクトを統合したSaaSビジネスの可能性についても検討を進めたいですね。『MELSOFT MaiLab』SaaS版 MVPを運用して知識や経験・お客様の声を得て、そこで生まれた新たな仮説や課題を再び『MELSOFT MaiLab』SaaS版 MVPによって検証していく、そうした循環をつくっていきたいです。
『MELSOFT MaiLab』SaaS版 MVPは、私たちがお客様と繋がり、お客様の本当の悩みや困りごとを汲み取るための手段になり得ると考えています。市場や顧客の真のニーズ・ペインをキャッチする「ビジネスの触角」として、得られた情報を上手く活用しながら、『MELSOFT MaiLab』だけでなく他のプロダクト、ソリューションも含めて事業を発展させられたらと考えています。
中野さん:
10 Days内でも今のシステム構造と将来の在り方について議論したこともありましたが、『MELSOFT MaiLab』SaaSという在り方に固執せずに、他のソフトウェアとの垣根を崩していきながら、会社としてFAソリューションをどうしていくのか考えていきたいですね。データ分析の実際のデータやノウハウを社内で一元管理するような動きも始まっていて、社内に蓄積されている情報をアプリケーションやサービスに落とし込むために、何をどうすべきなのか?というところを『MELSOFT MaiLab』MVPを使って模索していけたらと考えています。
もちろんデータやシステムのみに依存するのではなく、これからもお客様を直接尋ねてコミュニケーションをしていきたいと考えています。現場とシステム、どちらかだけでは不十分で、両方をしっかりと考えながら進めていきたいと思います。
ー最後に導入検討者に向けて一言をお願いします
岩田さん:
「やってみりゃいいじゃん」という言葉を伝えたいです。
これは、私が以前上司に言われてよく覚えている言葉なのですが、今回の10 Daysでも「やってみる」「体験する」ということの重要さ・強さを改めて感じました。
誰でもやったことがないことには不安を抱きます。ですが、0.9で滞って迷っている時に、必要なのは+0.1を踏み出す勇気だけです。勇気じゃなくても、気合、パッション、覚悟、エイヤア、好奇心、なんでもいいですけど。+0.1さえ踏み出してみれば、応援してくれる人や後に続く人はきっと現れます。
実際に体験して得られる感覚や知識が10 Daysにはあります。「やってみりゃいいじゃん」精神で、ぜひ体験して欲しいですし、体験させてあげて欲しいですね。
中野さん:
初めの一歩を踏み出すと、それにつられて後ろの足もついてきますよね。人は意外と、歩き始めれば歩き続けられるものなのだと思います。大事なのは一歩目を踏み出せるかではないでしょうか?SaaS化という文脈において、10 Daysは初めの一歩のための背中を押してくれる、あるいは手を引いてくれるような取り組みです。
物理的な制約が少ないのがSaaSで、そのメリットやスピード感を体感できるのが10 Daysです。その場で足踏みするよりも、初めの一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか?
ーありがとうございました!
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