【導入事例】『Sylphina』株式会社ギークフィード
工数削減とSaaS開発の知識、経験の補完で安全かつスピーディなリアーキテクティングを実現!!
ソフトウェア開発を中心に様々な事業を展開する株式会社ギークフィード。
近年ではAWS アドバンストティア サービスパートナーの認定を取得するなど、クラウド事業にさらに力を入れています。
今回は、既存SaaSのリアーキテクティングという課題にSaaSus Platformを活用し取り組んだ経緯とその効果についてお話しいただきました。
インタビューにご協力いただいたのはAWS テックリードの西山一平さんです。
コンタクトセンター関連システムのプロフェッショナル
ーまずは貴社の事業内容と西山さんの業務内容について教えてください。
西山さん:
株式会社ギークフィードは現在創業13期目でソフトウェア開発をメインの事業としています。事業内容としてはWebアプリケーションや基幹システム、業務システムなどのシステムの受託開発、自社サービスの販売・運用や自社クラウドサービスの開発・販売、AWSの構築、クラウドに関するコンサルティング、AWS上の開発を行うクラウドサービスなど多岐に渡ります。代表が通話録音やコンタクトセンターシステムのソフトウェア開発の事業に携わっていたこともあり、コンタクトセンターや通話に関するシステムを扱うことが多いです。
私はクラウドサービスの事業に携わっており、既にAWS上で提供している『Sylphina』というシステムのSaaS版の開発の統括を行っています。
ーありがとうございます。
今回、『SaaSus Platform』を利用して『Sylphina』のSaaS版の開発に着手されたとのことですが、まずは『Sylphina』ついて詳しく教えてください。
西山さん:
『Sylphina』は端的に説明するとAmazon Connect(AWSが提供するクラウドコンタクトセンター構築サービス)の機能を補完・拡張するアプリケーションです。Amazon Connectでは一般的な電話の受信や発信の機能自体は備えているものの、そのままでは機能や仕様の面で実際にコンタクトセンターで業務を行う人たちのニーズを満たせないことがあります。実は、日本のコンタクトセンターの独自の文化に即した機能や要件というものが存在します。主要なものでいうと、オフィスの座席の配置をPrivate Branch Exchange(PBX)の画面上に表示させて、オペレーターの状況を直接視認して把握するというのが日本のコンタクトセンターでは一般的です。これはオンプレからクラウドに移行するといったケースのRFP(Request for Proposal)にも高頻度で載るものですが、日本独自の慣習なのでAmazon Connectにはそのようなことを実現する機能がありません。
日本特有のニーズや要望がある中でAmazon Connectをそのまま使うと要件を満たせないことがあるので、それを補完するためのアプリケーションが『Sylphina』です。
『Sylphina』機能一覧
- カスタムブラウザフォン
- AIソリューションとの統合
- ユーザー管理
- ヒストリカルレポート/分析ツール
- リアルタイムダッシュボード
- カレンダー営業時間設定
『Sylphina』の機能にはAmazon Connectで実現可能なものも含まれます。例えばカレンダーの営業時間設定などはAmazon Connect上で設定することができますが、AWSやエンジニアリングの知識がないコンタクトセンターの管理者がそれを行えるかというとそうではないケースが多いので、『Sylphina』を使用することで直感的にAmazon Connectの機能を使えるようにする、という補助的な役割も担います。
ーなるほど。一口にコンタクトセンターといっても国によって必要な機能が異なるのですね。コンタクトセンターシステムをクラウドサービスで提供し始めた背景は何だったのでしょうか?
西山さん:
クラウドサービス化を後押しした要因としては、やはり新型コロナウイルスの影響というところが大きいかと思います。それ以前からオンプレサーバーや業務システムのクラウド化の流れというのは始まっていましたが、コンタクトセンターを構えていてもオペレーターが出社できない、業務に使うPCもオフィスにあるというような状況で、オンプレのPBXをクラウド化するというニーズが爆発的に増えました。
ー『Sylphina』をはじめとするコンタクトセンターのクラウドサービスにエンドユーザーが求めるものや解消したい課題というのはどんなものがありますか?
西山さん:
大きく分けて3つあると考えてます。1つ目は複数業務への対応が可能であることです。コンタクトセンターでは1人のオペレーターに対して複数の窓口業務をアサインすることがあります。そのため、業務や相手方に応じて発信番号を切り替える必要がありますが、Amazon Connectにはそのような機能が標準搭載されていないので、『Sylphina』を使うことでそういったニーズに応えることが可能です。
2つ目はオペレーターの業務の効率化です。他のオペレーターに転送する必要がある際に、そのオペレーターが転送を受けられるかを瞬時に把握することができる必要があります。
先ほどもお話ししましたが、オフィスで業務を行う際には実際にオペレーターの状況を視認して判断できますが、リモートだとそれができません。そういったケースに対応するために『Sylphina』ではオペレーターのリストとリアルタイムのステータスを表示し、判断ができるようにしています。また、電話を掛けてこられたお客様を待たせることは基本的に避けたいので、自身の業務の着信に待機時間が発生していないかも画面上に表示し、待機中のお客様がいる場合にはアラートを出すことで待機時間を最小限にすることが可能です
そして3つ目がレポート関連です。
リアルタイムのレポートや各業務ごとの状況を管理者が把握できるようにする必要があります。確認すべきKPIは日本独自のものもあり、必要な情報のみを瞬時に取得できるようにレポートのカスタマイズ性も重要なポイントになります。SaaS版では今後、ヒストリカルレポートのカスタマイズ機能の実装も予定されており、レポート関連のニーズをさらに満たせるのではないかと考えています。
知識と経験の不足がSaaS化の壁に
ーありがとうございます。サービスについてよく理解できました。
続いてSaaS化の部分についてご質問させていただきたいのですが、SaaS化の構想自体はいつ頃からあったのでしょうか?
西山さん:
初期段階から理想としてはマルチテナントの形で作りたいという思いはありました。しかし、当初は2人体制で開発を行っていたので、リリースのスピード感や開発人員不足などの課題もあったため、個別のテナントとリソースを用意して、必要や要望に応じてカスタマイズをしながら提供していました。2,3件実際にお客様に提供していく過程で、部署が大きくなって人的リソースも増えたため、将来的な拡張性や安定性を高めるために大幅なリファクタリングを実施し、2023年5月に最新バージョンがリリースされました。
その後、事業部内で『Sylphina』を今後どのように展開していくかについて考えた時に、従来のように大規模な顧客に対して個別にカスタマイズを施して提供していく形は維持しつつ、SaaS化してセルフサインアップができるようにして裾野を広げていくという決断に至りました。既にAmazon Connectを利用している方の中には、小規模のコンタクトセンターやオフィスなど、個別にカスタマイズを行わずとも標準の『Sylphina』で十分に価値を提供できるのではないかと考えています。
ーSaaS化において課題となっていたのはどのようなところでしたか?
西山さん:
端的に申し上げると、知識と経験の不足ですね。
SaaS開発と通常のソフトウェア開発が別物であるということは漠然と理解していましたが、テナント分離やオンボーディング、リソース共有の際のセキュリティの辺りが重要になることは分かっていても具体的にどのように考えるべきか、というところは明確にありませんでした。
ーSaaSus Platformの体験会にご参加いただきましたが、そこでの発見などはありましたか?
西山さん:
そうですね、体験会で実際にSaaSus Platformを触ってみて、開発コンソールと運用コンソールを別で用意する必要があることに気づきました。よくよく考えれば当然必要なものなんですが、SaaS開発の経験がない状態では実際に必要な部分を知らなかったり、見落としていたりということに気づかないまま、開発を進めていたかもしれません。仮に自分たちで1から考えて作っていたら、数ヶ月かかっていたかもしれない機能群を、自前で作らず利用できるので、コストメリットが非常にあると感じました。
開発工数の削減だけでなく、検討漏れのリスクにも対処できるという点は魅力的でした。
ーSaaS化については完全な内製も検討していたのでしょうか?
西山さん:
ちょうどSaaS化の検討を始めた段階でSaaSus Platformのご紹介を受けたのもありますが、コストメリットが明らかだったのでそれほど考えずにSaaSus Platformの利用を選びました。今回は定例MTGを設けていただいたり、必要に応じて相談を受けていただけるなどサポート体制も提供いただいたので、是非にという感じで、利用への障壁は特段ありませんでした。
ーSaaSus Platformを利用する上で期待していたポイントや達成したい目的は何でしたか?
西山さん:
従来の『Sylphina』はアウトバウンドではなくAWS様やパートナー企業からの紹介で顧客を獲得していました。大規模かつ個別のカスタムを要するケースが多いので、紹介数が多いと人的リソース的に対応できないという状況も起こりえます。
ですので、SaaSus Platformを利用することでセルフサインアップを可能にして、最小限のリソースで顧客を獲得することができればと考えています。2ヶ月無料のプランを用意しているので、トライアルからお試しいただき、評価していただくことでより『Sylphina』の価値を高めて行けたらと考えています。
ーSaaS化の過程でつまづいた点やSaaSus Platformを利用する上で苦労したポイントなどはありましたか?
西山さん:
開発に取り掛かった最初の月はあまり進捗が芳しくなかったです。認可のリゾルバーやマルチテナント化のためのスキーマ変更など具体的なアクションがわからず、なかなか進みませんでしたが不明点について相談させていただいて、理解してからはスムーズに開発を進めることができました。
SaaSus Platformを使う上で苦労したのは認証の部分ですね。従来の『Sylphina』はAWS Amplifyをベースに作られていて、その中でAmazon Cognitoを利用していましたが、SaaSus Platformが管理するCognitoに認証することになったので、自分の所有していないアカウントに対してクロスアカウントで、AWS AppSyncやAmazon API Gatewayからの認可で利用するところでハマってしまいましたね。AWS Amplifyはその中で完結するので、他のリソースを組み合わせて作るというのが難しかったです。
ー貴重なご意見ありがとうございます。AWS Amplifyと組み合わせるケースは今後も想定されるので、スムーズに実装できるようドキュメントやサポート体制など整えていければと思います。
ー現時点でのSaaSus Platformの導入効果など感じられましたか?
西山さん:
やはり開発におけるコスト削減の効果は大きいかと思います。
開発・運用コンソールや請求関連機能の部分など、既存のメンバーで作っていた場合、おそらく半年以上時間を要する上に、SaaSus Platformと同等のものを作れるかは分かりません。開発費用を毎月1人につき100万円と仮定した場合、それだけで1200万かかっていたと考えると、コストメリットは圧倒的かなと思います。また、サポートが手厚かったおかげで開発を加速することができたと思います。
ーAWSのサービスと組み合わせて活用している機能にはどんなものがありますか?
西山さん:
SaaSus PlatformのAmazon EventBridge連携機能とAWS Cloud Development Kit (CDK)を組み合わせて活用し、テナントオンボーディングを自動化しています。テナントの契約ごとに環境作成を手動で実施しているとサービスの提供までにリードタイムがかかってしまいますし、差異が生まれる人的ミスのリスクもあります。そういった課題に対応すべく自動化に取り組んでおります。これにより課題の解決はもちろんビジネスのスケールにも耐えられる体制になったと考えております。
SaaS版『Sylphina』の機能拡張によって小中規模事業者の課題を解決していく
ー今後の事業の展望などお伺いできればと思います。
西山さん:
先ほどもお話しした通り、従来の『Sylphina』で個別のお客様へのカスタマイズ提供とSaaS版の提供を組み合わせることで『Sylphina』というサービスをより発展させていけたらと考えています。
また、SaaSus Platformをご紹介いただいたのもAWSパートナーネットワーク経由ということもあり、AWSパートナーネットワークに可能性を感じています。Amazon Connectや『Sylphina』をはじめ、コンタクトセンター関連を得意とするパートナーはそれほど多くないので、より多くのパートナー企業に『Sylphina』を認知していただき、Amazon Connectと『Sylphina』がセットで提供されるようなサービスにしていけたらと思います。
SIできるパートナーが少ないこともありますが、国内では中規模向け、小規模向けの領域が手薄になっているように感じます。SaaS版の『Sylphina』の機能を拡充しながら、そういった層の課題を解決し、SaaS版で得た知見やフィードバックを元に従来の『Sylphina』の基本機能を拡充し、多様性や充実性を高めて、AWSや大手のプレミアパートナーなどのより大規模な顧客のAmazon Connectに対するニーズに『Sylphina』で応えていけたらと考えています。
ー今後、SaaSus Platformに期待することはございますか?
西山さん:
将来的には『Sylphina』をAWS Marketplace経由での提供ができたらと考えています。SaaSus PlatformをAWS Marketplace経由で契約しましたが、利用開始までがスピーディーで感動したので、ぜひ利用したいです。『Sylphina』はAmazon Connectの補完・拡張を行うので、AWS前提のビジネスになるので、顧客との親和性も高いため期待しています。
ー最後にSaaSus Platformの導入を検討している方への一言をお願いします。
西山さん:
SaaSに関する経験や知識がない状態からサポートを受けながら『Sylphina』のSaaS化を行ってきました。SaaSを作る前には気づいていませんでしたが、SaaSを作る上で必要な機能や検討事項というのは実際には予想以上にたくさんあります。
SaaSus Platformはそういった部分をカバーしてくれるので、ぜひご利用を検討してみてはいかがでしょうか。
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SaaSに関する基礎的な知識を身に付けたい方はぜひご一読ください。
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